地球に存在するきのこ(茸)は数えきれないほどに多い。食用となるきのこは2000種類を超えるが、韓国人は「きのこ」といえばまず最初に秋を思い浮かべる。松茸(まつたけ)のせいだ。松茸は松の木に自生して育つということからこう呼ばれている
松の木の根元に頭を出している松茸は、秋の贈り物だ。味もさることながら、何と言ってもその香りが一品の松茸は栽培ができない上に、気候にも敏感に左右され、採取するのが難しい希少価値の高いきのこだ。
高麗中期の文人イ・ギュボ(李奎報)は『東国李相国集』第14巻古律詩の中の『松茸を食べる(食松菌)』で松茸について詳しく描写している。
きのこは腐った地面から出てきたり
あるいは木から生えてきたりする
いずれにしても腐ったところから出てくるので
しばしば中毒にかかることが多いといわれる
しかし、このきのこだけは松から出てきて
常に松の葉に隠れているという
松のぬくもりから出てくるので
清らかな香りの何と芳醇なことか
香りに釣られて手にするので
二つほどでも十分だ
聞いたところによると松脂を食する人
神仙の道に最も近くなるという
これも松の気運だ
なぜこのきのこを薬の種類だと言わないのか
生態系循環の大切な役割
大方の人はきのこを植物だと思っているが、実は植物ではない。植物には葉緑素があるがきのこのにはない。光合成ができないので他の植物や動物の助けをかりて養分を得なくてはならない。きのこが動物と似ているところがあるというのは、そのような理由からだ。
マッシュルーム、椎茸などは枯木に依存し、有機物を分解してそれを食べて生きている。また動物の排泄物に残った養分を利用して育ったりもする。イ・ギュボ(李奎報)の詩にあるように腐ったところで育ったきのこだからといっても、すべてが中毒を起こすわけではない。人類はむしろ腐った植物から育ったものをはるかに多く食べている。人口栽培が可能だからだ。中国ではすでに13世紀にナラの木の切り株を使って椎茸の栽培を始めた。マッシュルームは17世紀のフランスでメロン栽培から出た堆肥と馬糞堆肥を利用して栽培が始まった。
きのこは生態系の栄養素の循環に非常に大切な役割を果たしている。木の細胞壁はセルロース、ヘミセルロース、リグニンの成分でできている。特にリグニンは分解が難しいが、地球上でこれら細胞壁の構成成分を分解できる唯一の生物がきのこだ。菌類が枯木を分解して食べる過程を通じて木は土に還り、その土壌で再び木が育つ。松茸はポルチーニ、トリュフ、椎茸と同様に、生木と共生するきのこだ。きのこは土の中のミネラルを集めて木の根に一部供給する。その代価として木の根はきのこに糖を分け与える。他のきのこより松茸により多くのミネラルが含まれている理由もおそらく、共生関係にあるからだと思われる。
難しい成長環境
きのこは、土の中で網のような形の菌糸として広がっている状態のときは、ほとんど目に見えない。菌糸は養分を十分に集めて、水を吸収し子実体と呼ばれるより緻密な菌糸組織を作り出す。私たちが食べているのは、土の中の菌糸体ではなく植物の花に該当する子実体、つまりきのこだ。
松茸は生木に依存しながら育つため栽培が難しい。地面から10㎝程離れた松の木の根元で共生している。松茸は夏の梅雨時に土の温度が低くなると採取できるが、品質の良いものは主に秋に採れる。土の中の温度が19度以下に下がると松茸の菌糸があちこちに広がり、子実体が地上に姿を現す。成長のためには雨が必要だが、そうかといってあまり多く降ってもダメだ。温度も低すぎても高すぎてもよくない。松の木の年輪の数が多すぎても少なすぎてもダメだ。また常に松の葉に覆われているが、あまり多く積まれても育つのが難しい。
松茸にあやかる
松茸は笠があまり開いておらず、先が銀白色のものほど品質が高いと評価される。新鮮な松茸は他のきのことは比較できないほどに、優雅で気品のある松の香りがする。
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松茸は条件がすべて整ってようやく育つので、値も当然張る。笠が開く前の状態で長さが8㎝以上の時、価格は最も高くなる。軸の太さが一定でなかったり笠が少しでも開いたものは2級品となってしまう。笠が傘のように開いていると値段はさらに下がる。どんな形であれ味も香りもそんなに差はないが、人間の評価は希少性に従って大きく振れる。
また毎年、生産量による価格の変動も大きい。韓国内の主産地は江原道と慶尚北道一帯だ。特に江原道のヤンヤン(襄陽)で採れるものは有名で、2021年9月18日付の『中央日報』の記事によれば、ヤンヤン松茸の歴代最高の卸値価格は、2019年に記録された132万ウォンだ。
松茸の人気の高さは他のきのこのネーミングにまで影響を与えてる。セソンイポソッ(エリンギ)、チャムソンイポソッ(松きのこ)、コッソンイポソッ(ハナビラタケ)、ポドゥルソンイポソッ(ヤナギマツタケ)、ヤンソンイポソッ(マッシュルーム)などは名前にソンイ(松)がついているが全部違う品種だ。そんな名前をつけたのもたぶん松茸の希少価値にあやかるためだったのだろう。
香りで食べるきのこ
タンパク質、食物繊維、ビタミン、ミネラルなど、優れた栄養素が含まれているが松茸。人気の最大の理由は、放たれる秋の香りにある。秋夕(旧暦の8月15日)を迎える頃になるとこれを求めてやってくる美食家が多い。松茸を入れて炊く松茸ご飯は口に含んだ瞬間、清らかなな松の香りが口いっぱいに広がる。800年前、イ・ギュボが松茸を食べながら神仙になったような気分だといったのも理解できる。
秋になると松茸を求める人が多いが、残念ながら松茸の生産量はだんだんと減少している。1985年まで年間1300トンほど生産されていたが、最近では年平均219トンに減っている。松林の減少、気候の変化、落ち葉の蓄積、松材線虫病などの影響で採取できる松茸の量が大きく減っているのだ。2009年、アメリカオレゴン大学の研究によれば、松茸を採取する際に、熊手のような道具で浅く芝かきをし、採ったあとは、土を交換してやれば翌年の生産量にほとんど影響を与えないが、土をふたたびかけなかったり、深く芝かきをしてしまうと翌年の生産量が90%まで減少すると発表している。人間が欲を出せば自然と共存できないということをよく示している。
松茸を新米で炊いた松茸ご飯は秋の最高の味覚だ。きのこは最初から入れずにご飯が炊きあがったら蒸らす直前にご飯の上に乗せるようにするのがポイントだ。
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汁物に松茸を使う際にはコクのある料理が良い。鍋料理にして食べたり、アサリ、鰹節、昆布をベースにしただし汁との組み合わせがお勧めだ。
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再び脚光をあびる野生きのこ
きのこにはうま味の成分のグルタミン酸、グアニル酸が豊富だ。その独特なうま味成分によって、特に料理の腕に自信がなくても、チゲや炒め料理などに使うと味に深みが増す。肉を焼くときに一緒に焼いたり、卵と小麦粉をつけて焼くジョンにしたり、串刺しにしてサンジョクにして食べる。国内で食用が可能なきのこは400種類に達する。最近韓国に自生する様々な野生きのこの価値にスポットライトが当たっている。フランスで大切にされているモレルマッシュルーム(アミガサタケ)、シャントレル(アンズタケ)を韓国でも味わうことができる。キム・ソンユンフード専門記者が書いた『朝鮮日報』の2018年10月18日付の記事に、モレルモレルマッシュルームの国内での名前はコムボポソッで春に全羅南道新安で採れる。シャントレルはケコリ(鶯)ポソッ、オイコッ(キュウリの花)ポソッ、エコッポソッ、ウェコッポソッなど、様々な名前で地方の伝統市場で売られているとあった。だがこれらのキノコを知る人は少なく、チゲの材料にするくらいにしか利用されていないという。多種多様なキノコ固有の味や香りを料理別に楽しむことのできる人が増えて、韓国の野生きのこに対する関心ときのこ料理のレパートリーが増えることを期待する。
チョン・ジェフン 鄭載勳、薬剤師、フードライター
チェ・スジン崔水眞、イラストレーター